近年の国内での地方創生型の芸術祭は大小合わせて枚挙にいとまがない程乱立し、其々が地方の独自性をアピールする機会とするため、それと呼応するように芸術祭そのものもダイナミックかつビジュアルからして華やかなもの(たとえばそれは巷で言われるフォトジェニックなるもの)から、地味で地域に根を張るようなもの(たとえばそれはソーシャリーエンゲイジドアートのような対話・参加・協働などに重点を置くもの)、またカウンターとして反芸術祭的芸術祭なるものまでありとあらゆるバリエーションが生まれています。また、国際行事として東京オリンピックや大阪万博の開催を間近に控え、地方へのインバウンド対策や魅力の推進PRの手法として採用されています。
発端はイタリアのベネチアビエンナーレから始まり、それが日本に利殖されることで増殖し相対化し淘汰され残されているサイクルの中でガラパゴス化し、「日本性芸術祭」という世界的に見ても稀なムーブメントとして定着していることは確かです。ただその反面、現象に対する疑問として「アートという手法を用いて一般大衆に迎合し、地方創生のツールとしてアートしいてはアーティストを消費している」というネガティブなイメージも付きまとっていることも確かです。
上記の流れを踏まえて、鉱山と道の芸術祭はどのような独自性と継続性・また反省があるのでしょうか。
独自性という点においては、幣法人の特徴ある取り組みである産業遺産の調査や記録・見学を通じた保全や今後の利活用のきっかけを創出するという目的を前提として、産業遺産を活用した現代アートの展示は全国的に見てもユニークかつ先鋭的であるという点です。現代アートの展示は近年美術館やギャラリーという権威と制約と制限のあるスペースから脱出し、公共空間や固有の歴史性の高い場所に展示する傾向にあります。また、その中でも産業遺産で展示するということはその中でも独自の魅力を放っているとともに、幣法人の長年培った産業遺産保全のノウハウやネットワークがあってのことです。また、継続性という点においても産業遺産保全に携わる個人や団体・行政や企業との連携を持続的に行っている限り可能です。
産業遺産の試験的活用方法としては、現代アートの展示により産業遺産に興味のある層のみならず広く多層的な属性の方と鑑賞や協働・交流を図ることで、今後の産業遺産の保全活用の一手につながる可能性を秘めています。
ただ、反省としては産業遺産そのものの威風堂々とした佇まいに、サイトスペシフィックなアート作品を併置するという手法は厚みや迫力・蓄層された歴史的文脈や時間に落差が生じアンバランスになり成立しにくいことも確かです。しかし成立しにくいということこそが、アーティストの表現のさらなる高みへと挑戦するモチベーションになることも事実です。今後産業遺産でのアートプロジェクトは念密な調査と調整により段階的に進めていくことは必須であり、緩やかにじっくりと産業遺産とアート作品及びアーティストの関係を育むことが必要と思われます。また、アート作品は展示することで早急に明確な成果が表れるわけではない点をプロジェクトに関与するメンバーではよく理解する必要があります。アート作品を通じて産業遺産をどのように保全するのか・改修し活用するのか・または看取るのかを議論する機会とし、そのことがまた次なる産業遺産とアートの関係性と可能性の扉を開いていくのかもしれません。
*1「播但貫く、銀の馬車道 鉱石の道」
*2「鉱山(ヤマ)と道の芸術祭」
<執筆者プロフィール>
小國陽佑
1984年 兵庫県豊岡市生まれ 長田区在住。
近年ではNPO法人芸法として長田区駒ヶ林町に拠点を移し、地域に根ざした様々な社会活動を通じて若手アーティストの育成・支援を行う。地域での取り組みとして、まちなか防災空地や駐輪場・防潮堤の整備事業、空き家のリノベーションと展示プログラム、コミュニティプログラムなど。
また、活動拠点である「角野邸」は築80年以上の和洋折衷の近代建築であり、アート作品展示や映画の舞台など様々な活用を実践している。
NPO法人芸法 理事長
NPO法人J-heritage 理事
NPO法人関西KIDSコミュニティ協会 理事